2010-03-02

夜桜の道

私は、急に思い立った。

その男が花見のために歩いた道を、聞いたそのままにたどって歩くことにしたのだ。

先ず京都市バスの東山三条で降りる。そして古川町商店街を通る。最近ではこのように色んなお店のある商店街は珍しい。男が花見用に買ったであろう「つまみ」の類を店頭に眺めながら南へ。

白川に出る。よくテレビにも出る、幅40センチほどの石橋をわたる。知恩院の古門をくぐる。このあたりから桜がある。きれいだ。華頂学園に向かって東へすすむ。

知恩院前。大きな大きな三門。恩師もわが先祖も浄土宗の寺に眠っている。だからこの総本山へのお参りもしなくてはとも思ったが、時刻はもう五時を過ぎていた。閉門の後でシャットアウト。

それでさらに南へ向い、いよいよ天下の桜の名所、円山公園へ入る。しだれ桜の近くはカメラの人が一杯!

私は山の方へ向い、池の橋をわたり、道なりに桜のトンネルを進む。

男はこの辺で花を賞でたのか?この石に腰かけたのか?と思いをめぐらす。友人と二人で缶ビールだったのだろうか?ワンカップも飲んだのか?とさらに想像する。

ふと目線を空に向ける。うす暗くなってきた東山に月。満月に近い。東山、桜の枝、月。思わず携帯でカシャ!!


すると、どうだろう、お月様の中に男の顔があるではないか。あーお月様に吸い込まれてしまったのか。何と静かで、きれいで清らかな、と思う。

八坂神社の裏手は、夜桜見物客のために篝火が焚かれ、屋台も出ている。男の好きなアルコールの香りも、人々の間からただよう。

境内を西へ通り抜ける。四条通りの始まる祇園石段下から、流れに逆らって雑踏を行く。南座横から川端通りを南へ。川の左岸の遊歩道にはしだれ桜と芽吹いた柳が交互にあって、都の春の錦を感じさせる。また宮川町も近いし、ちょっとなまめかしい気持ち。

鴨川には右岸の大きい料亭などの影が落ちている。それを見ながら四条大橋より一本下の団栗橋をわたると、すぐに木屋町筋と高瀬川に突き当たる。

ここがまた絶景!川はカーブを描いており、流れは浅く、速く、桜の枝は川巾を満たし、ライトアップされた花は、はらはらと散りそめ、心奪われるほど。


お月様は、東山のすぐ上空にあったけれど、今は中空に近い。私が西へ歩いただけ、お月様も西へ動いた。やっぱり顔もあった。

そこから四条河原町は目と鼻の先。京都一の目抜通り。ここからは私の生活圏。週一でデパ地下へ買物に行くところだ。

その男は桜に酔いしれた一週間後、転んだのが原因で天に登ってしまったのだった。花見の続きのように。

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